「センパーイ!車買っちゃいました」
「あらそうなの」
「はい!これでペーパードライバー返上ですよ」
ネルフ、昼休みのリツコ研究室で昼食も終わり二人はたあいも無いお喋り。マヤは車を購入したようでウキウキしていた。
「それにしてもイキナリね」
「休みの日は自分の運転でドライブに行きたいなーって思ったら、いてもたってもいられずに買っちゃいました」
コーヒーを口に含み、嬉しがるマヤ。リツコはその様子に微笑ましくなる。
「これで通勤ラッシュもさよならですよ」
「ふふふ」
いつも電車で通勤しているマヤであるが、ラッシュは無い。ジョークといったところだろうか。リツコも笑う。
「それで車は何を買ったの、軽自動車?日本車は性能が良いし安いから手ごろだけど、miniも良いわね。あの『羊の皮をかぶった狼』魅力的よ。で何を買ったの?」
リツコの説明的な台詞にマヤはニッコリして答える。
「Ferrari F50です」
Driver's High2
「そうF50・・・・ブッ〜〜〜〜!」
リツコはおもわず口に含んだコーヒーを吐き出した。
「先輩大丈夫ですか?」
「ゴッホゴッホゴッホ・・・・マヤ、アナタ何を買ったかわかっているの」
ハンカチを口に持って行き咳き込みながら尋ねる。
「はいF50です」
アッケラカンにニコニコして答えるマヤ、リツコは頭を抱える。
「・・・・F50はねFerrariが50周年を記念して限定349台生産された名車なのよ」
「凄いんですね〜、でもどうして349台なんですか?キリのいい350台じゃないんでしょう?」
驚いた様子はなくニコニコ。
「それがFerrariのポリシーなのよ」
「へえ〜、う〜ん凄い車買っちゃいましたね」
(・・・・・ダメだわこの子)
リツコはため息をついてコーヒーを飲みなおす。
「どうしてF50を選んだの?他にも種類はあるのに」
「車のカタログを見たんですげど迷っちゃって、それで車好きの葛城さんに相談したらこれがいいって進められました」
「ミサトが・・・」
カーキチガイのミサトが絡んでいたとわかって納得した。そうしなければ選ぶはずが無い。
「丸みをおびてて赤色で気に入っちゃって、少し高かったけど買っちゃいました」
「・・・・マヤ今度からミサトに相談するのはやめなさい」
「?」
マヤの肩をポンと叩くとうなずいた。
「ペーパーからイキナリFerrariとは運転できたの?」
当然の疑問。Ferrariは乗りこなすのが難しい。ましてちょっと天然が入っているマヤはペーパードライバー。
「ペダルが重くて何度もエンストしましたがなんとか大丈夫です。今日も乗ってきました」
「そ、そう・・・・」
ニコニコして答えるマヤ、リツコは汗が流れる。
「今日は先輩を送ってあげますよ」
「!・・・・ざ、残念だけど今日は残業なのよ」
乗りたくない事が完璧に現れている。
「そうですか。残念です。それじゃあ明日送ってあげますね」
連続パンチ。
「あ、明日も残業なのよ〜〜あっそういえばここ一ヶ月は残業で送ってもらえないわ」
すかさず対応。残業は無いのだが乗りたくない。
「え〜残念です。せっかく先輩の為に買ったのに・・・」
「・・・・」
無言になった。『いつかは乗らなければいけないの・・・』と。
「ほら、もう時間よ」
「は〜い」
マヤはニコニコしながら研究室を出て行く。後にはため息をつくリツコ。
「はあ〜〜〜、今日からどうしようかしら」
仕事はきっちりと終わる、残業は無い。後はマヤと会わずにどうやって帰るかだ。
カチャカチャカチャ
マヤのデータをMAGIに入力、最適の方法を見つけ出す。
「あの子はいつも定時通りにここを出るわね・・・・すると遅れて帰るのが一番良いわね」
別にMAGIで出さなくても考えればわかることだが、MADは何事もMAGIを使用しないと気がすまない。
そして終業時間、リツコは白衣をロッカーにしまうとすぐには研究室を出らずイスに腰をかける。そしてタバコを出しいっぷく。
「ふう〜〜、三十分後に出ればいいかしら」
普通ならもう帰るのだが乗りたくないので時間を潰す。
「ごくごく、ふう〜〜後十分あるけどもういいかしら」
コーヒーを飲み終えると時計に目をやる。あれから二十分経ったのだ。そしてバックを手に取ると研究室を後にした。
コツコツコツ
ハイヒールの音が静かな廊下に響く。エレベータにのり入り口へ。
コツコツコツ
「あれ?先輩もうお帰りですか?」
「!」
聞いた事がある声、ゆっくりと後を向いてみると、そこに立っていたのは帰ったはずのマヤ。
「ア、アナタ帰ったんじゃなかったの?」
「帰ろうとした時、お腹が痛くなっちゃってトイレに・・・って先輩何を言わせるんですか」
ピョンピョン飛びはね恥ずかしがるマヤ、リツコは時間通りにしなかった事を呪った。
「一緒に帰りましょう。送りますよ」
「え、あ、そうだ!残業が・・・・」
「行きましょう」
「あ、ああっ」
言い終わる前に腕を掴まれ、駐車場に引っ張られた。
「見てください、私の車なんです」
「え、ええっ」
駐車場にとめられたF50、流線型なボディー、Ferrariを象徴するイタリアンレッド、ため息が出るくらい美しい。
「さあ、乗ってください」
「え、ええ・・・」
ここまで来て断るとマヤは泣いてしまう事だろう、ここは優しい先輩として観念して乗った。
カチ
バケットシートに身を合わせ、4点ベルトで固定する。
「じゃあ行きますね」
マヤはニコニコしてエンジンに火を入れた。
グオオオオオオオンンン
Ferrari特有の甲高いエンジン音、カーマニアを魅了してきた音である。
「ええと、ギアを一速にいれて、キャ!」
ガクンと体が前後に揺れ、エンジンが止る。
「エンストしたの」
冷静なリツコ、予測していたのである。
「はい、あっ!」
「どうしたの」
「クラッチ、踏んでいませんでした」
ガン!
ダッシュボードに頭をぶつけるリツコ。マヤは舌をだして笑っている。
「ア、アナタねえ〜」
「すいませ〜〜ん」
もう一度エンジンに火を入れた。
グオオオオオオオオンンン
「それじゃあ行きますね」
「ちゃんとクラッチ踏んでるの?」
「はいっ」
ギュルギュルギュル
「きゃああああ」
ホイルスピンをさせながら発進。リツコはシートに叩きつけられおもわず叫び声を上げた。
「ごめんなさ〜い。クラッチが重くて離しちゃいました」
(こ、この子は・・・・・)
平然と答えるマヤ、リツコは改造してやろうかと思っていた。それは車?マヤ?
なんとか国道にでたF50、道は混雑していない。一台だけである。これなら事故は起こさないだろうとリツコは思っていた・・・・
グオオオオオ!!
エンジンが叫びスピードをあげた。
「な、スピ〜ドあげてどうしたの」
驚きマヤを見るが、前を凝視してステアリングをぎゅっと握っていた。
「先輩、前です。前を見てください」
「前?何もないじゃない」
前方を確かめるが何もない。だがマヤは汗をかきつづけている。
「信号が青なんです!」
「青?」
たしかに200m前方に信号機があった。今は青、スピードを上げたのはこのまま通過しようという事だろう。
だがそれはリツコは間に合わないと思った。横断歩道の信号が赤になっている。たとえ飛ばしても赤になって止らなければいけないだろう。
「マヤ、もう間に合わないわよ」
「だめなんです〜〜、ああっ赤に・・・・」
残念ながら50m手前で赤に、マヤは真っ青になると停止線に停止した。
「別に急ぐ事はないんでしょう?」
「そ、それがダメなんです」
「なぜ?」
「ここ、坂道発進なんです〜〜!」
ガン!
ガラスに頭をぶつけるリツコ、マヤは目がウルウル。
「マヤ・・・・あなたは・・・・」
「私、坂道発進。苦手なんです〜〜昨日は青だったのに今日は赤。先輩!これはゼ〜レの陰謀なんですか」
「・・・・・知らないわ」
呆れてため息がでる。
「もう習ったでしょ。ギアをロ〜に入れて半クラッチでサイドブレ〜キを下ろすのよ」
「は、はい!わかりました」
マヤはギアをローに入れるとエンジンをふかす。そして信号が青になりサイドブレーキを下ろした。
スルスルスル
「ああ!バックしています!ちゃんとロ〜に入っているのに」
ゆっくりとバックしていくF50、すかさずブレーキを踏んだ。
「ギアがつながっていなかったのよ」
「流石先輩!」
「・・・・」
言葉がでない、もう一度チャレンジ。普通なら後からクラクションと苦情がくるのだが、マヤの一台しかないのでよかった。
「ええと、半クラッチで静かに静かに繋いで、サイドブレ〜キを・・・」
ギュルギュルギュル!!!
急発進、またクラッチを急に離した。タイヤ煙をあげ走り去る。リツコはGによりシートにめり込む。
「ぐえ!」
「センパーイ!発進できました」
嬉しくて騒ぐマヤ。
「そ、そう・・・よかったね」
その後、普通の平らな道路だったのでトラブルもなく。なんとか家に着いた。
「センパーイ!おつかれさまでした。どうでしたか私の運転?」
「え、ええ、ありがとう。もう少し練習したほうがいいわよ」
「は〜い。それじゃあ明日は迎えにきますね〜」
そう言うとマヤはホイルスピンをさせ走り去った。
「・・・・・明日・・・・・」
リツコは肩からバックが落ちると明日の事を想像した。
(・・・・・・・早くでましょう)
前回の後書きのとおりアスカ、レイの続編ではありません<_>
久々のマヤです。そして今回の被害者はリツコ。被害者はアスカでもレイでもシンジでもよかったんですが、マヤにはリツコ、リツコにはマヤ。でそうなったわけです。
こんな小説?でも最後まで読んでくれた方々に感謝します。
NEON GENESIS: EVANGELION Driver's High2